主人公のお願い(前)


 

 冒険者としてのノーブル伯の名声は、日に日に高まっていきました。彼女自身、依頼をこなすごとに自分の冒険者としての経験値が蓄積されていくのを嬉しく思っていました。しかし彼女には一つの悩みがありました。それは、未だにちゃんとした錬剛石を見付けたことがないということです。情報を集めて、そことおぼしき場所へ行ってもすでに誰かに取られてしまった後か、見付けても使い物にならない位の小さな結晶にしか出会ったことがありません。

 困った彼女はゼネテスに相談し、彼の秘密のスポットへ連れていってもらい、そこで立派な錬剛石をめでたくゲットしました。そのときに錬剛石探しのコツも、いくつか教えてもらったようです。

 しかし連れ立って出かけていたのを噂好きな町の人に目撃されてしまい「あのゼネテスが遂にノーブル伯に手を出した」という噂からさらに尾ひれがついて「ゼネテスの手でノーブル伯は蕾から花へ生まれ変わった」となったところでレムオンの耳に入りました。

× × ×

レムオン「貴様に聞きたいことがある。先日、我が妹をどこぞへと連れ出したそうだが、本当か」

ゼネテス「そうだけど。はずれにある洞窟だよ。あそこなら俺以外、誰も知らねぇから」

レムオン「そんな人気のない場所に、妹を連れ出したのか」

ゼネテス「人が来ないからいいんだろ。彼女に頼まれたからにはやっぱそれなりの…」

レムオン「まさか!妹が、自ら頼んだと言うのか?」

ゼネテス「ああ。自分はこの件に関しては初心者だから、一から教えてほしいって言われてな」

レムオン「い、一からだと?」

ゼネテス「まぁ俺のほうが先輩ってことになってっから」

レムオン「貴様がその道に詳しいとでも言うのか!」

ゼネテス「おいおい、俺が何やって身を立ててっかくらい知ってるだろ」

レムオン「な…!そのようなことを臆面もなく言ってのけるとは…!」

ゼネテス「なんつうか、常識の範疇だろ。だから彼女悩んでたんだぜ。今更恥ずかしくて誰にも聞けなかったって言ってたもんな」

レムオン「だからといってこんな恥知らずに教えをこうとは!貴様に妹を正しく導けるとは思えん!」

ゼネテス「ひでぇな。俺だって先輩としての面子があるから、教えてくれって言われりゃ手取り足取り丁寧に…」

レムオン「黙れ!よりによって貴様なんぞに!妹よ、何故その前に、こ、こ、この兄に一言相談してくれなかったのだ…!」

ゼネテス「あんま経験なさそうだからじゃねぇの」

レムオン「何だと!」

ゼネテス「失礼だけど、やったことあんの?」

レムオン「やかましい!」

ゼネテス「まぁ俺自身も実は結構久し振りでさ。まかせとけ、なんて言ってて上手くいかなかったらどうしようかと思ってたんだけどな。そこは、ま、経験で何とかなるもんだよな。彼女、すっかり喜んじまってよ、何て言ったっけな『すごい、こんな大きいの初めて…!』」

レムオン「!!」

ゼネテス「この奥にもいい場所があるけど、どうするって聞いたら『行く行く行く行く!』って…おい、レムオン!うわっと!あぶねぇ!やめろって!落ち着けよ!何怒ってんだよ!」

 

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