主人公のお願い(後)
レムオンは、ゼネテスの話の内容と、その彼に止めを刺すことができずに逃げられてしまったこととで、失意のうちに家に帰りました。レムオンがリューガ邸に着くと、丁度、妹が旅から戻ってきていたところでした。笑顔で自分を迎えてくれる妹に、いつもと変わった様子はありません。レムオンは思いました。 「全てはあのどら息子の作り話ではないのか。なにせ雌狐の甥だ。あんな男の言うことを真に受けた俺のほうがどうかしているやもしれぬ」 「どうしたの?お兄様」 妹の声でレムオンは我に返りました。髪をさらりと揺らして気遣わしげにこちらを見やる姿に、なにやら胸が痛くなってきます。レムオンは曖昧に返事をしながらゼネテスとのやりとりを思い出していました。 「あんな男なんぞに…!」 想像するだけで、はらわたが煮えくり返りそうです。レムオンは勇気を出して、妹に直接聞いてみることにしました。 × × × レムオン「実はお前に聞きたいことがあるのだ。先日、ファーロスのどら息子と連れ立って出掛けたというのは本当か?」 アーリット「え?ええ。そうだけど。何で知ってるの?」 レムオン「そ、そうか…やはりそうなのか…。いや、噂で小耳に挟んだものでな。お前から…その、誘ったと聞いたが」 アーリット「誘ったというよりも、私のほうからお願いして連れていってもらったんだけど」 レムオン「それは一体どういうことなのだ。お前が自分であの男を選んだのか?何故よりによってあの男なのだ?もっと他にいなかったのか!」 アーリット「だって…例えば、お兄様はその…あんまり得意そうじゃなかったし」 レムオン「お前までそう思っていたのか!」 アーリット「セバスチャンだって、そう言うと思う。聞かれたらみんなそう言うと思うわ」 レムオン「やはり俺はそういう風に見えるのか…。確かに積極的に関わることはなかったが、その結果をこんなかたちで思い知らされるとは」 アーリット「お兄様はいかにも貴族然としているから、そういうの、似合わないよ」 レムオン「似合う似合わんの問題ではないのだ…何とも頼りにならぬ兄だな…」 アーリット「お兄様。私が先にゼネテスに相談したのを怒ってるのね?」 レムオン「そうは言っていない!」 アーリット「そうなのね。ごめんね…。博識なお兄様だもの、有益な助言をいくらでもくれたはずだったのに…。改めてお願いするね。お兄様の知ってることを、私に教えてください」 レムオン「なっ…!お前!ほ、本気で言ってるのか!」 アーリット「もちろんよ。今、時間あるよね?」 レムオン「今!今すぐだと!?」 アーリット「私、まだまだ初心者だから。教えてもらえるのなら、早いほうがいいでしょ」 レムオン「ま、待て、いや、しかし、その…」 アーリット「だめ、じゃないよね?お願いするのも結構恥ずかしいんだからさ…」 レムオン「お前…本当に…何て言うか…お前はその、それでいいのか?」 アーリット「うん。でもまた噂になったら困るから、誰にも見られないように、二人だけでこっそり、ね?」 レムオン「……」 アーリット「じゃ、お兄様、早速…え?…ちょっ…あっ…!お兄…!」
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