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時つ風

 

 

 ああ、 。ちょうどよかった。今、いいか?

 ん?それは後でかまわねぇよ。てかお前、そんなことまでやってんのか。もうすっかりここの一員だな。

 でもそうか…お前が来てから…早いもんだよな。季節も変わるわけだな…。

 

 お前に、話があるんだ。

 っておい、そんなかしこまらないでくれよ。俺が緊張するだろ。

 えっとだな…これだ。見てくれ。

 ああ、髪飾りだよ。お前に合わせて作り直させたんだ。今日、やっと届いた。

 直したっていうのは…全部だよ。この翡翠の部分以外は。

 そう、翡翠だぜ。こういう赤ってちょっと珍しいだろ。

 これ…もう少ししたらお前にやろうと思って。

 やるっていうか、その、あれだ。

 俺と…。

 その…。

 ずっと前、お前ん家に行って…断られたことをだな…。

 今度こそ…って、どうした?

 え?何のことかって?もしかしてお前、知らねぇ?マジかよ!

 あのとき以来お前ん家行っても門前払い食らわされるようになって、手紙出しても全然返事も来なくってさ。

 畜生、やっぱり俺のこと一切伝わってなかったんだな。

 いや、いいんだよ今更!お前が謝ることじゃねぇだろ!

 

 あのさ、

 俺達が天下を取ったら…俺さ、こういう立場から一回退こうと思うんだ。

 親父もいるし、権もいる。安定しちまえば大丈夫だろ。

 そうすれば、俺、お前のこと一番に考えることができるから。

 今だってもちろんそのつもりだけど、他に考えなきゃいけないことも結構あってさ。

 だからそのときに…。

 俺と、一緒になってほしいんだ。

 確かお前、呉郡を離れたことってなかったよな。

 俺は、そうなったらまず二人でどっか行きたいって思ってる。

 北でも西でも、どこでもいい。

 おもしろいこともいっぱいあるだろうし、おもしろいヤツもいっぱいいると思うんだよ。

 それで色んなものを見て回って、美味しいものも食ってさ、気に入ったらそこに住み着いてもいいし、飽きたら帰ってこりゃいい。

 そういうことを、お前と二人でやりたいんだ。

 

 何で今から言っておくかっていうとだな。

 俺はお前によく考えてほしいんだ。

 今まで考えたことがなかったんなら、なおさらだ。

 よく考えて、その上でお前がどうしたいのか、それをそのときに聞かせてほしい。

 俺、あの頃よりはちょっとは大人になったつもりだから、お前がどんな返事をしても、俺…どんな風にでも対応できると思う。

 いいか間違えんなよ。俺じゃなくてお前がどうしたいかだぞ。

 だってお前、気ぃ遣うだろ。

 え?そんなことない?だーかーらー!

 

 ええと、まぁ、そういうわけだ。

 慌てなくていいからな。こっちももう少しかかりそうだし。

 だからこれはもうしばらく俺が持ってる。

 俺、それまでにもっと男上げとくから。

 受け取るかどうか、そのときに返事してくれ。

 いいな、

 お前は身ひとつでここに来た。

 今度は俺が、身ひとつでお前のところへ行くよ。

  

 


 

 陸家の娘は孫策の恋人っぽいけど妻ではないらしい…という中途半端な立場だったのでちょっとまとめてみました。こういうポジションでもよろしいでしょうか…。

 なおタイトルの「時つ風(ときつかぜ)」は潮の満ちるときなど時を定めて吹く風、もしくは時期に適した風のことだそうです。

 

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