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白雪姫

 

 

 《配役》

白雪姫…

お后…孫尚香

小人(一)…周瑜

小人(二)…陸遜

小人(三)…太史慈

小人(四)…呂蒙

小人(五)…甘寧

小人(六)…黄蓋

小人(七)…周泰

王…孫堅

王子(一)…孫策

王子(二)…孫権

 

 

 昔々あるところに、白雪姫と呼ばれる可愛らしいお嬢さんがいました。白雪姫の生家は代々続く立派な家柄でしたが、それが災いして跡目争いが続き、白雪姫はそれに巻き込まれて家族を失った上、家を追い出されてしまいました。

 白雪姫が途方に暮れながら森を歩いていると、一軒の家にたどり着きました。そこには七人の小人が住んでいました。白雪姫はその家の扉を叩いてお願いしました。

「実はこういう事情で困っているのです。申し訳ありませんが、しばらくの間、こちらに置いていただけないでしょうか」

 穏やかで働き者の白雪姫を、小人達は歓迎しました。こうして白雪姫は小人達の家に住むことになりました。

 

 その一方で。国のお后は、魔法の鏡と向かい合っていました。男勝りのお后ですが、実は女らしい女性にこっそり憧れを抱いていました。

 お后は鏡に尋ねました。

「ねぇ、鏡さん。この世で一番素敵な女性は誰かしら」

「それはもちろん、白雪姫です」

 鏡は即答しました。お后は興味を持って鏡に訊きました。

「白雪姫?どんな人なの?」

「今は小人の家にお住まいされている方で…」

 鏡は説明しながら白雪姫を映し出しました。お后は、その姿にうっとりとため息をつきました。

「あ〜。私、こういうお姉ちゃんが欲しかったのよね〜。男兄弟ばっかり何人もいらないからさ〜」

 お后は白雪姫とお近付きになりたくて、贈り物をしようと考えました。贈り物には林檎がいいと思ったお后は、産地から厳選した極上の林檎を準備させてリボンをかけ、白雪姫に贈りました。

 小人達が仕事に行って留守の間に、白雪姫はその林檎を受け取りました。ちょうど天気も良かったので、白雪姫は近くの切り株に腰掛けて林檎を一口かじりました。

「あら、美味しいわぁ!」

 極上の林檎は素晴らしい味わいでした。

「もう一口…んぐ!」

 あまりの美味しさに気をはやらせた白雪姫は、林檎を飲み込むタイミングともう一口食べるタイミングを間違え、うっかり喉につまらせてしまいました。白雪姫は林檎を落とし、その場に倒れました。

 そこへ小人達が仕事から帰ってきました。白雪姫が倒れているのを見て、小人達はびっくりしました。かじりかけの林檎がそばにあることから、小人達は事態を把握しました。

「どうやら、この林檎を食べていて喉に詰まらせたようだな」

 眉をわずかに寄せても美しい小人が言いました。

「助けてあげないといけませんね」

 律儀に赤い三角帽子をかぶった小人が言いました。

「問題は、誰がやるか、だな」

 好戦的な響きを口調に含ませて言ったのは、ケンカ好きの小人です。

 小人達の視線は落ちている林檎から、白雪姫の可愛らしい唇に一斉に注がれました。

 小人達は皆、同時にお互いをけん制するように、にらみ合いました。

 背中をドンと叩けばいいのでは、と言う者は誰もいませんでした。

  

 最初に動いたのは、ケンカ好きの小人でした。そこへ一番の年長者である小人が大声をあげて加わり、無口な小人は黙って構えました。

「痛い目に遭いたくないヤツはすっこんでろ!」

「若い者には負けんぞ!」

「…やるか」

 乱闘が始まりました。

 それを横目で見つつ、赤い三角帽子の小人は、他の小人の相手をするために、じりっと動きながら言いました。

「邪魔者が来ないうちに、早急に決めてしまうほうがいいでしょうね」

「その意見に賛成だ」

 赤い三角帽子の小人の先輩にあたる小人は頷きました。その言葉を受けて、髪を風にそよがせてなお美しい小人が言いました。

「そうだな。こういうときは呼ばれもしないのに王子様がやってくると相場が決まっている」

 そのとき、高らかな蹄の音が聞こえてきました。小人達がその方向を見ると、馬に乗った中年の男性がこちらへ向かってきます。男性は小人達の前まで来ると、馬を止めて叫びました。

「この俺が小人の家一番乗りを果たしたぞ!白雪姫はいずこにおわす!」

「これは…とうのたった王子様ですね…」

 赤い三角帽子の小人がつぶやきました。

「何か言ったか」

 男性がにらみました。

「いえ、何も」

 赤い三角帽子の小人はしれっと言いました。

「まぁ、いい。俺は王子ではない。王子の親、すなわち王だ。白雪姫の噂を聞いて迎えにきたのだ。姫はどこに?」

 王は馬から降りて辺りを見回しました。そのとき、乱闘に夢中で王には気付いていなかったケンカ好きの小人が、近くにあった石を拾って、無口な小人めがけて投げつけました。無口な小人は黙って身をかわしました。石はそのままうなりをあげて飛び、王の頭に後ろから命中しました。

「ぐわっ!」

 王は悲鳴をあげて倒れ、動かなくなりました。

「何と運の悪い…」

 ころりと転がった石を見ながら、一番の年長者である小人が手を止めてつぶやきました。

 それでも小人達は、邪魔者があっさりと消えたことにほっと胸をなでおろし、乱闘を再開しました。

 まず、無口な小人は年長者である小人が味方をしてくれるという言葉を信じて油断したところをガツンとやられてしまいました。無口な小人は倒れる直前に美しい小人がわずかに微笑んだのを見たような気がしました。その年長者の小人も用が済んだとばかりに美しい小人に倒されてしまいました。こうして残った小人は五人になりました。

 その小人達の耳に、またもや馬の蹄の音が聞こえてきました。

「馬鹿親父め!とっとと倒れてんじゃねぇよ!」

 今度は若い男が馬を乗り入れてきました。

「どけどけぇ!王子様のお通りだぁ!」

 そう言いながら王子と名乗った男は小人達の乱闘の輪に突っ込んで、何と次々と小人達を蹴散らしていきます。

「何たる武勇…!」

 王子のことが気になるらしい小人は、次の瞬間には王子の一撃をくらって倒れました。これで小人は四人になりました。

「おい!女はどこだ!?…そこかぁっ!」

 他の小人達の乱闘の隙を突いて、王子は倒れた白雪姫に向かって一直線に馬で駆けようとしました。が。

 どぼっという鈍い音の後、王子はぐらりとよろめきました。

「いでぇ…!この…や…ろっ!」

 白雪姫に気を取られていた王子は、赤い三角帽子の小人が石で狙っていることに気付きませんでした。王子は石が直撃したわき腹を押さえて落馬し、そのまま動かなくなりました。

「王子を…やっつけましたね…」

 赤い三角帽子の小人がうっすらと笑みを浮かべて言いました。

「仕切り直しだ!」

 声も美しい小人が宣言しました。

 他の小人達が一斉に頷き、構えようとしたところ、またもや遠くから馬の蹄の音が聞こえてきました。

「兄上!父上に続いて兄上までもお倒れに!何たること…!見ていてください!父上と兄上の志は私が継ぎます!何としてもこの手に白雪姫を!」

 どうやら先の王子の弟のようです。小人達もさすがに三度目になるとウンザリしてきました。

 王子が到着する前に少しでもライバルを減らそうと、小人達はお互いに隙をうかがいます。

 が、そこで美しい小人は悪寒を感じて、額に手を当てました。

「く…!私としたことが、風に当たりすぎたか」

 どうやら熱が出てきたようです。

「やむを得ん、今日は休むとしよう」

 美しい小人は家に入ってしまいました。残った小人は三人になりました。

「おら!やんのか!やんねぇのか!」

 ケンカ好きの小人は近付いてくる王子を気にしながら言いました。ですが赤い三角帽子の小人と、その先輩にあたる小人はなぜか戦う気配を見せません。

「俺もちょっと体調悪いから、やっぱり辞退するよ」

 先輩にあたるほうの小人が言いました。

「僕は一番の若輩者ですから、やっぱり見てるだけにします」

 赤い三角帽子の小人が言いました。それを聞いたケンカ好きの小人は、ラッキーとばかりに顔を輝かせました。

「そっか!分かった!じゃああとは王子とやらを…!」

 ケンカ好きの小人が、王子を迎え撃とうと後ろを向いたときに、二人の小人はその背中に襲いかかりました。二人がかりで殴られて、ケンカ好きの小人もばたりと倒れました。

 赤い三角帽子の小人は周りを見回して言いました。

「残っているのは僕達二人と、王子様だけのようですね」

 それを聞いた先輩にあたる小人は、返事の代わりにくしゃみをしました。

「ああ、でも俺も何か真剣に調子悪くなってきたぞ。せっかくここまで残ったけど、やっぱ俺、家入るわ」

 先輩にあたる小人は、後輩に「頑張れよ」と声をかけた直後に、家で寝込んでしまいました。

 

 こうしてこの場に立っているのは、赤い三角帽子の小人と、到着した王子のみとなりました。

 二人は、白雪姫を挟んで言い争いを始めました。

「小人よ!お前は王子である私が白雪姫を求めるのは間違っていると言いたいのか!」

「そうは申し上げていません!ですが白雪姫が今どちらにお住まいしておられるかということから、この件に関する正当な権利についてもう少し考慮していただければと…!」

「同じことだ!」

「王子様!」

 なおも続く王子との言い合いに、赤い三角帽子の小人は遂に頭に血が上りました。

「白雪姫のことはもう結構!僕は実家に帰らせていただきます!」

 赤い三角帽子の小人はくるりと背を向けると、さっさと歩き出しました。王子はさすがに言い過ぎたと思ったのか、謝ろうと慌ててその後を追いました。

「ま、待て!小人よ!私が悪かった!おーい!」

 

 そして誰もいなくなった…と思われたそのとき。

 

 倒れていたほうの王子の手がぴくりと動きました。目線だけをしばらくきょろきょろさせて、やがて王子はむっくりと起き上がりました。

「実は俺、死んだフリ、得意なんだよな」

 王子は両手で埃を払いながら、ゆっくりと歩き出しました。

「ああ、でもマジで痛かったぜ。アザになってんじゃねぇのか…」

 ブツブツ言いながら目的に人に近付いた王子は、屈んで白雪姫を抱き起こしました。王子は満面の笑みを浮かべると、目を閉じたままの白雪姫に口付けしました。そうしながら王子は片腕で白雪姫の体を支え、もう片方の手で白雪姫のドレスの首の後ろのホックを外し、背中のファスナーを下ろしました。ドレスの肩の辺りが緩んだところで、胸元を広げるように引っ張ります。

 さらに図々しくも白雪姫の唇を深く吸ったところ、その勢いで王子の口の中に何かが飛び込んできました。

「…んあ?」

 王子は自分の口からそれを吐き出しました。

「なんだこりゃ。果物か何かか?」

 そのとき、白雪姫がうっすらと目を開けました。白雪姫はまず王子に、次に自分の格好に気付いて青ざめました。

「あ、あなた様はどなたですか」

 白雪姫は両手で胸元を隠すようにして言いました。

「俺?王子だけど」

 王子は白雪姫の仕草にちょっと残念そうな表情をして言いました。

「何を、なさってるんですか」

 白雪姫は言いました。

「お前を俺の嫁さんにするための儀式」

 王子は悪びれることなく答えました。そのぬけぬけとしたもの言いに、白雪姫はキッと王子をにらむと叫びました。

「お戯れはおやめくださいっ!」

 その言葉に、王子は白雪姫をにらみ返しました。

「戯れじゃねぇぞっ!!」

 王子は大声で怒鳴ると、白雪姫の両腕を自分の両腕でつかんで、地面に押し付けました。

「俺は本気だっ!!」

 王子のまなざしは真剣そのものです。

 白雪姫は心を打たれました。

 二人の気持ちが通じ合い、二人はそこで情熱的な口付けを交わしました。

 王子は宣言通り白雪姫を妻にしました。

 二人はお城で仲良く幸せに暮らしましたとさ。

 

 


 

 展開が強引すぎてフォローのしようが…(別にこれに限ったことじゃないけど・汗)。

 『かぜ江』ではは左ももになってましたが、孫策が死んだフリをするもとになった怪我についての記述で、「流れ矢に当たって股に傷を負」ったってのに吹いたのは私だけでしょうか(『正史三国志英傑伝』)…とか思っていたら、「股」は腿の意であることをずっと後で知りました…(笑)。

 

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