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「伯符さまって、花に例えると桜ですね」

  はすぐ後ろにいる孫策のほうを振り向いて言った。

 二人でのお出かけの途中である。大き目の馬に が前、孫策が後ろに乗って手綱はもちろん孫策が握っている。

 河川付近の街道の桜がちょうど見頃であるという話を聞いて二人はやってきたのだ。満開の桜が街道をアーチのように囲む姿は壮観で、普段は馬に乗るとひたすら飛ばしたがる孫策も、さすがにゆっくりとした常歩(なみあし)で馬を進ませる。

「俺って、あんな頼りない色してるか?」

 孫策は意外そうに言った。白に近い薄桃色の天井を振り仰ぎながら。

「いえ、色とかではなくて…」

  は苦笑する。

 ちょうどそこで桜のアーチを抜けた。川面の手前には鮮やかな緑色の草原とその上にくっきりと境界を分けて広がる青空。

  はもう一度振り向いて桜の木々を見た。孫策がそれに気付いて馬を止め同じ方向に視線を移す。

 川のほうから風が吹いた。手前から奥に桜の枝が風に揺らされていく。

 花びらは風に乗って。

 空の青色に、薄桃色が吸い込まれていく。

 孫策はそれを追いかけるようにゆっくりと首をめぐらす。

 花びらはさらに舞い上がる。

 落ちるのではなく、空へと。

 やがて遠くに消えたのを見てから に視線を戻した。

「…あんな感じか?」

「…はい」

  は頷いた。天に向かって己を飛ばす様が孫策には相応しいように思えたのだ。

「それなら悪くねぇな」

 孫策はそう言って笑みを浮かべた。

「んじゃ、そろそろ行くか」

 孫策は馬の腹を軽く蹴る。二人を乗せた馬が歩み出す。

 桜の花びらが、それを追いかけるように空に流れた。

 

 


 

本当は、とっとと散っちゃうことと、桜(さくら)の中に、「さく」っていう音があるからというどうでもいい理由なんですけど…。

でも華やかでさっぱりしたのなら何でも似合うような気がしますね。

 

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