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米的冗談

 

 発端は誰であるのか分からないが、あるとき呉の庁舎内で慰安旅行の話が持ち上がった。

 話はとんとん拍子にまとまり、長江を巨大な船で渡る優雅な旅が企画された。

 呉の名だたる将は全員参加、にも誘いが来たため彼女も乗り込むこととなった。

 楽しい旅、となるはずだった。

 

 しかし、数日後のある夜、厨房のちょっとした不注意から船の内部で火災が発生し、火は隣の部屋、さらに隣の部屋へと燃え広がった。

 このまま火災が収まらなければ沈没してしまう…船の状態を正しく把握した船長は、安全のために乗っているものは海に飛び込むよう声をかけた。

 事務官や女官たちは次々と海へ飛び込んだが、残っている者たちもいた。呉の名だたる武将達である。

 常日頃から戦場に立つ彼らには、いくら船長が「危険ですから」と言っても聞き入れてもらなかった。また一部に燃える船上での戦の経験者もいたことが残留に拍車をかけていた。

 姿勢そのものは立派であるが、炎は大きくなるばかり。万一の際には大変なことになる…困った船長は、まだ残っていたに武将達の説得を依頼した。

 事態が一刻を争うものであることを理解したは、足早に武将達を探した。

 身の安全のためである、多少の方便もやむを得ないと考えながら。

 

 はまず孫堅に声をかけ、海を指差しながら言った。

「殿、今あそこの波の合間に黄祖がいませんでしたか」

「何!?おのれ黄祖め!生きておったか!」

 孫堅は海に飛び込んだ。

 

 は続いて孫策に声をかけ、海を指差しながら言った。

「伯符さま、海に飛び込んだら面白いですよ」

「本当か!?」

 孫策は海へ飛び込んだ。

 

 は次に孫権へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「仲謀さま、殿も伯符様も飛び込まれました」

「そうなのか。ならば父上と兄上の後に続こう」

 孫権は海へ飛び込んだ。

 

 は次に周泰へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「幼平さま!仲謀さまが海で溺れています!」

「…任せろ…」

 周泰は海へ飛び込んだ。

  

 は次に周瑜へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「公瑾さま。もうじき鎮火するので予定通り演奏会が始まりますよ」

「濡れた楽器でか…?くっ…耳を塞ぐものもない。やむを得ぬ」

 周瑜は海へ飛び込んだ。

 

 は次に太史慈へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「子義さま、伯符さまが先ほど『泳ぎで勝負だ』と言って飛び込まれました」

「何と。負けてなるものか、その勝負、受けてたとう!」

 太史慈は海へ飛び込んだ。

 

 は次に呂蒙へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「子明さま。海へ飛び込むとすごく勉強になるそうですよ」

「それは知らなかった。俺もまだまだだな」

 呂蒙は海へ飛び込んだ。

 

 は次に陸遜へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「伯言さま。海に飛び込んだ事務官たちの先導役をするはずだった子明さまが溺れてしまいました」

「分かりました。では子明どのの代わりに僕が先導します。子明どののことは頼みますよ」

 陸遜は海へ飛び込んだ。

 

 は次に黄蓋へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「若い人なら飛び込めると思いますが、公覆さまではやはり難しいですね」

「何を言う!ワシはまだまだ現役だ!」

 黄蓋は海へ飛び込んだ。

 

 は次に甘寧へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「興覇さま。海でケンカが始まったようです」

「何だと。俺も混ぜろ!」

 甘寧は海へ飛び込んだ。

 

 は最後に凌統へ声をかけ、海を指差しながら言った。

「公績さま。興覇さまが飛び込まれたそうです。勇気のある方ですね」

「勇気?飛び込むなんて簡単だって。ほら、見てな」

 凌統は海へ飛び込んだ。

 

さん、ありがとうございました。さ、早くさんも早くお逃げください」

 武将達が無事脱出したことを見届けた船長はを促した。

 は頷きながらも、眼前に広がる黒々とした海を見ると足が竦んでくるのは否めない。

 のためらいを見た船長が、「さん、あれを」と言って海を指差した。

 その先には、の機転を理解した武将達がこちらを見て一斉に手を振っている。船長は言った。

「皆があなたを待っていますよ」

 は海へ飛び込んだ。

 

    


 

沈没する船に乗った各国の人間を、海に飛び込ませるために何と言うかというアメリカンジョークの無双バージョンです。キャラが出てるかどうか心配…。

アメリカンジョークサイト「ジョークアヴェニュー」に三国志バージョンのジョークがありますので興味のある方はご覧ください。笑えます。

 

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