妹へ
ディンガルの朱雀将軍と刃を交えたあの戦いについての、勲功に関する式典が行われることはお前も知っているだろう。
その時にいまいましいファーロスのドラ息子が正式に当主の座につくらしい。
しかもこともあろうに、リューガ家として、新当主の誕生を祝うような挨拶をしろと雌狐に言われた。
以下、その原稿だ。当日はこれを読み上げるだけだが、お前ならば真意を汲み取ってくれると信じている。
兄より
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ファーロス家の嫡男ことゼネテス殿は、冒険者としても、また戦場の指揮官としても常に |
真剣に責務に取り組まれ、その精励ぶりのため、戦場に慣れぬ他の貴族の優雅さは、彼の隣では |
だらしないこと、この上なく見える。彼は昼夜を問わず、手が空けばすぐに |
新しい情報を集めさせ、手柄のあった部下にはねぎらいの為、自分の |
酒瓶を開けたそうである。そして彼はしばしば決められた時間を延長してでも |
ロストールと王家のために、まさしく身を粉にして働き、彼の身を心配する者に言われて仕方なく |
休憩をとっていたと聞く。また彼は、いかなる場合でも相手の身分に関わらず、特に女性に対しては一貫して |
親切で、その地位を鼻にかけたようなおごりたかぶったところがない。冒険者仲間からも信頼厚く、お互いに気軽に |
遊びにいこうと誘っていると評判だ。以上のことから、彼に相応しい貴族としての地位というのは |
その能力の高さからして、平時、戦時を問わず、このロストールの中枢に位置する以外 |
在り得ない。したがって、このロストールと王家の繁栄の為にも、ゼネテス殿が一刻も早く、亡きお父上のあとを |
継ぎ、力を尽くされることを望む。我がリューガ家としても、素晴らしい当主を迎えられたその盛運を |
追うよう、願うばかりである。 |